現代の就活に対して、皆がある程度感じているだろう違和感や不快感を非常に的確に描き出した本。
朝井リョウさんの書く文章は本当にすきです。
なんでこんなに違うタイプの人間を、まるで本人であるようにかき分けられるのか。
毎回感嘆させられる。
5人の登場人物が出てきますが、皆違うタイプの人間です。
主人公は一番主張が薄めですが、いわゆる要領のいいタイプ。
ほかの4人は、親のために自分の夢を犠牲にする子、夢を語り理想論で生きるタイプ、意識高い系女子、みんなに好かれるお調子者タイプ。
それぞれ個性が違いますが、「あーーいるいる!こういう子!」
っていう感じです。
要領いいタイプの主人公ですが、周りの必死に就活をしている友達をどこか冷めた目で見ています。しかし、これは本当に主人公だけなのか?実は読んでいる我々が、この主人公なのではないだろうか。少なくとも私は、この主人公のようなところがあるな、と感じます。
みんなで同じ服装、髪型をして、台本のようなセリフをしゃべり、必死に自分を売り込む。なんだか気持ちわるい。こんなことしたくない。でもしないという選択肢を選べない。そんな気持ちを、この本は表してくれている気がします。
お調子者タイプ君が、なかなか内定の出ない主人公に言うのです。
「俺、お前がなんで内定出ないのか本当にわかんないんだよ」
勉強得意とかスポーツ得意とかそういうのと同じで、俺は就活が得意だっただけなんだ、と。
本を読んでから数年たちますが、この言葉は突き刺さって離れません。
そして主人公が心の中では馬鹿にしている意識高い系女子。
彼女も、物語の終盤、主人公にため込んでいた言葉を突きつけます。
彼女は、自分が主人公やほかの友人に、どこか馬鹿にされていることを気づいていたのでしょう。ですが、それを承知で、恥を捨てて本気で就活をしていたのです。
「私、あんたが内定取れない理由わかるよ。」
彼女は主人公にこう言い放ちます。
何者でもないあんたなんて、だれも採用したくない。
これは主人公に向けて放たれた言葉。しかし、主人公と同じような目線で彼女を見ていた読者に向けられた言葉でもあります。他人を小ばかにし、自分だけはどこか違う、と高みの見物をしているようでは、相手にもそれが伝わるのだと。自分も相手と同じ土俵に立たないと、相手を評価するような資格はないのかもしれません。
就活について、本当にいろいろ感じさせてくれる本でした。
いろいろ突き刺さる部分があるのですが、最後は前向きにさせていくれるので、これから就活する人も、経験した人にもおすすめです。