個人評価:★★★★★
ジャンル:小説、ヒューマンドラマ
主人公の夏子は小説家を目指し大阪から東京に上京してきた38歳。
子供の頃から貧乏で、姉の巻子と母とコミばあと一緒に暮らしていました。
ストーリーは妹の巻子と、巻子の娘である緑子が夏子の家に遊びに来るところから始まります。性を意識し始める年齢になり、体の変化に困惑する緑子と、豊胸手術を受けたいという巻子。別々の方面で性に悩み、また親子という関係にも悩む二人の親子が描かれます。
その後、困難な時期を乗り越えた巻子と緑子。
そんな頃、夏子は自分の子供に会ってみたい、と思うようになります。
しかし、夏子自身は性行をしたくない、という思いがあります。
私のここは、そんなもののためにあるのではない。
夏子は自分の体に対して感じます。
そこで行き着いたのは、第三者から精子の提供を受け、妊娠するという方法。
もらった精子を注射器などを使って自分で体に取り込むのです。
日本では夫婦にしか認められていない方法ですが、海外やSNSを通じた個人とのやり取りならば自分でも可能であると、考え始める夏子。
そんな中、精子提供で生まれたことで苦しみ、自分の父親をわずかな情報で探している逢沢と出逢います。夏子と逢沢は徐々に親密になっていきます。
その一方、夏子は子供や妊娠に関する様々な意見に触れていきます。
仕事をしていたら子供を作る暇がなかったが、それでよかった。
小説家に子供なんていらない、という編集者。
男なんていらないが、子供は素晴らしいものだ、という小説家の友人。
生まれてくることは、自分にリスクのない賭けをしている。
子供を産むことはエゴだ、という自分も精子提供で生まれた善。
一つ一つの意見で揺れ動きながら、夏子が最後に選ぶ結論とは。
非常に考えさせられる内容でした。
精子提供にかかわらず、性とは、生きるとは、子供を産むとは?
色々なことを考えさせられ、今まで考えてこなかった命題に打ちあったた気分です。
すでに様々な賞を受賞していますが、まさに一読すべき一冊です。
ぜひ読んでください。
小説の本編でも触れられているのですが、本全体が「大阪」を感じさせます。
文の流れ、言葉のリズム、表現でしょうか。
関西弁を使っていないのに、大阪を感じる小説でした。
主人公を取り巻く哀愁というか、気だるさや倦怠感、くすんだイメージが全編にあるのですが、主人公の気持ちが大きく揺れ動いたときに、その空気がバッと変わる感じが、もうぜひ読んでとしか言えないのですが、文章表現が本当に素晴らしかった。
特に最後の家に行き、電話がかかってくるシーンが好きです。
ぜひ読んでください。